タネが危ない

タネが危ない

なぜ、ネットベンチャーの経営者をしていた私が自然農を志し、信州に移住してきたかを最初にまとめておきます。
サラリーマンからネットベンチャー経営者時代の波乱万丈の様子は、別項に譲ります。
20012年9月25日午後8時にそれは起きました。
友人のリクルートグループ事業会社の社長就任内祝の席上で、普段通りにお酒を飲んでいたら吐き気と鼓膜がひきつれるようになり店の外でぐったりしていました。そこに同行の友人が心配して出てきてくれて、様子を見るなりなんのためらいもなく119番通報を始めました。後からわかった事ですが、その友人は以前にも同様の経験があったそうです。
程なく救急車が到着し、担架に乗せられたところで記憶は途切れています。
脳内血管動脈瘤破裂によるクモ膜下出血です。友人の連絡で駆けつけた嫁さんは、担当の女医さんに開口一番「まず、覚悟して下さい。この症例の場合、1/3は即死です。1/3は重篤な後遺症に悩まれます。1/3はリハビリを経て社会復帰に時間がかかります。健康を取り戻すのは残りの方だけです。」と宣告されたようです。
次に記憶が繋がったのは術後の翌朝、理学療法士の先生の「さぁ起きてください。まず歩いてみましょう」。ここから運動と、記憶や思考など脳のリハビリが始まります。
奇跡的に後遺症もなく、健康と脳の機能を取り戻して今生きていますが、思い返すと三つのラッキーと家族の看病のおかげだということが分かります。一つは、同行の友人に同様の経験があり、119番通報に迷いがなかった事。良くあるケースは、酒酔いだと思われて放置され翌朝には冷たくなっている事だそうです。もう一つは運ばれたのが慶應義塾大学付属病院であった事。倒れてから2時間以内の処置が最も大事だと聞きました。担当の女医さんは嫁さんに付き添って、執刀病院まで救急車で搬送してくれたそうです。お顔も存じ上げませんが、ありがとうございます。
最後の一つは、慶應系列の済生会中央病院に運ばれ、そこにカテーテルでの脳内動脈瘤止血の名医がいた事。私の患部術野は左目眼窩のすぐ奥で、カテーテルではなく開頭外科手術の場合の手術難易度が高く、止血に成功しても脳内神経や脳内血管が術中に傷ついて二次障害も往往にして起こりうる事だとのこと。なので、翌朝から歩くリハビリの話につながります。
最初の二週間は、ベッドの上でなんで生まれきたんだろうと反芻ばかりしていました。次の二週間は、だれか人のためにこれを活かせる道はないだろうかと模索の毎日。「なんで生まれてきたんだろう」の答えはまだ見つかりませんが、運命や定め、ミッションなどを意識して生きるようになりましたし、毎日生き切ろうと思っています。生かされているんだと実感する毎日です。「誰か人のために…」は退院するなり、人脈をたどってヘルスケア関連で企画が活かせる道を探し始めました。
「がんサポート」という月刊誌を出版している会社の紹介を受け、「がんサバイバー100人に聞く!生還の秘訣」という企画を立てて実施。食べる物を根本から変えると答えた人は100%。その内9割の人が玄米食に変えたとの記述が目を引き、やはり食べるものかと腑に落ちるとともに、自分のネットベンチャー時代の無茶に反省も同時にする。
しかし、企画のキレとかまとめきる力などがなかなか戻ってこないと思っていたところ、全くの偶然で血流を良くする効果で服用しているスタチン系の薬には、脳内シナプスの働きを抑制してしまう副作用があることを知り、服用を一切止める。3ヶ月ほどかかり本調子になる。食べ物に関する調査をしているうちに、投薬の問題から医薬業界の闇に気付き、同時に米国でのミールクーポンの裏側も知ってしまうことになる。ハマったら絶対に逃げられない食品メーカーと大規模小売業、医薬業界の鉄の三角形です。このテーマも闇が深いので別項でまとめておきます。
クモ膜下罹患の3ヶ月前に嫁さんが始めた天然酵母と国産小麦にこだわったパン店を手伝いながら、「食」の大事さを実感するとともに、「食」の分野で仕事を探し始めることに。古巣のリクルート社に相談すると「日本野菜ソムリエ協会」で講師を探しているとの情報に接して、早速アプローチしたところ、野菜ソムリエ資格取得者の開業指南の講師になってほしいとの願っても無いチャンス!嫁さんの夢であったパン屋さんの開業と事業としてのすべり出しもうまくいっていたので、この経験を開業指南にまとめ上げると、具体的だとのことで超人気講座に成長しました。現在も不定期ですが継続中です。聴講してくださった方が、自らの夢である出店を果たせたのを見て、これがミッションだと理解しました。ライフワークにしています。
「食」について勉強していると、我が家のお米の美味しさに改めて気づきました。このお米は、50年以上無農薬で、天日干しの義父自慢のお米です。改めて「無農薬」の意味について考えて、農薬について勉強し始めると、種苗と農薬、除草剤の寡占している悪魔の存在にぶち当たります。同時に農薬の窒素過多で、農地から流れ出た窒素で世界中の海も汚染されているとも知り、人体だけではなく地球にも良くないことだと再認識しました。この問題は、日本では赤潮の被害、中米ではメキシコ湾が死の海になっています。

取り返しのつかないことになる前に、なんとかしなければならないが、どこから手をつければ良いか途方にくれるほどの問題の大きさでした。自分できるところからやり始めようと思い、パン屋来店客への啓蒙と、嫁さんの実家で義母の無農薬の畑を手伝ってみることにしました。野菜ソムリエ協会講座の聴講生である野菜ソムリエさんに無農薬農家の紹介を頼むと二人の生産者さんと繋がりができることになりました。ひとりは、神奈川県相模原の愛川で「たむそん自然農園」を営む田村吾郎さん。もうひとりは、埼玉県比企郡ときがわで営農する草叢農園の藤田芳宏さん。このお二人の作る無農薬野菜をパン屋の店頭で販売すると、近所で大人気になり、瞬く間に売り切れてしまいました。一年かけて、忙しいパン屋の仕事をやり繰りして、お二人の農園に勉強に通い、無農薬栽培の実際に触れました。特に田村吾郎さんは、無農薬、無施肥、不耕起栽培、自家採種とのこだわりで、私達の理想形です。東農大出身で、理論的に体系的にご説明頂けるので、私達夫婦の師匠です。
さて、「タネが危ない」です。これは、私が尊敬する野口修氏の著作のタイトルです。氏は冒頭で「人々が何も知らない間に、タネが地球生命の輪から抜け落ちようとしている。」と問題提起をされています。私は、この後に「何者かの力によって」と付け加えさせていただいています。ここで、種苗会社のベスト10を見てみましょう。
1.モンサント
2.デュポン
3.シンジェンタ
8.バイエル
9.サカタのタネ
10.タキイ種苗
上位の二社は、二回の世界大戦で財を成した死の商人です。ちなみにモンサント社は、人体に悪影響があると明らかになった、サッカリン、 PCB、DDT、アステルパーム、牛成長ホルモン、除草剤ラウンドアップなどの開発元であり、GMO分野では90%のシェアがあります。3位のシンジェンタは、農薬では世界シェアトップです。昨年、中国化工がシンジェンタを買収したことが大きな世界ニュースになりました。日本ではほとんど報道されていません。また、バイエルがモンサントを買収したことも大きな世界ニュースになりました。こちらもほとんど報道されていません。EUは域内へのモンサントの上陸を頑なに拒否してきましたが、ドイツ企業の傘下になったので、自動的にEUに入り込むことに成功しました。欧米の企業らしく、ロビー活動も戦略的で、日本でも「種子法」が昨年廃案にされました。これもほとんど報道されていません。この問題も今後の農業において大きな影響がありそうです。
現在、私たちがホームセンターなどで買うことができる「タネ」はほぼ100%F1と呼ばれる一代雑種(ハイブリッド)です。スーパーで買う野菜もほとんどがF1種です。私たちが進める自然農は無農薬、無施肥、不耕起栽培、自家採種を基本としています。私たちが畑に撒くのは、形質が固定されていることから何代も子孫を残せる固定種のタネです。今、私たちが進めなければならないのは、自然農の農家をできるだけ増やしていくことです。もうすでに間に合わないかもしれません。が、絶望に屈するのは最悪なのでハチドリのひとしずくと言われても進めていきます。
もう少し、F1のタネ包囲網の恐ろしさにお付き合いいただくと、種苗会社はタネと農薬、除草剤のセット販売をしています。スーパーで買う野菜は、農薬まみれだと覚悟しなければなりません。米国での大規模農業はほぼ100%GMOの作物ですが、近年の報告によるとこの畑を受粉のために飼われていたミツバチが、原因不明の消滅してしていることが報告されています。以前に米国で問題になったネオニコチノイドの影響ではないようで、蜂群崩壊症候群CCDと言われ世界環境における影響が不安視されています。
F1種を交配させるときに雄性不稔(花粉ができない突然変異種)が不可欠と言われています。メンデル法則に従えば、GMOの畑は雄性不稔の畑でしょうから、蜂たちは、勝手が違っているのかもしれません。恐ろしいことです。
「もしハチが地球上からいなくなると、人間は4年以上生きられない。ハチがいなくなると、受粉ができなくなり、そして作物がなくなり、そして人間がいなくなる。」アインシュタイン
さて、私たちはどうすれば良いのでしょう。まず、自分の身体は自分が食べたものでできていることを再認識しませんか。自分の身体に責任を持ちましょう。何を食べ、何を食べないのかを自分なりにルール化してしまいましょう。マスプロダクトの製造会社はあの手この手で情報を隠そうとしている傾向にあることを知りましょう。そして安心・信頼のおける生産者さんと繋がり、なるべくそこから入手するようにしましょう。
また、もう少し進めて自分の家族が食べる分は自分で作り始めるのも素晴らしいことだと思います。小さくても良いから、まず始めましょう。自分や自分の家族が食べる物に農薬はかけないでしょうから、無農薬ですね。自分や自分の家族が食べるものが育つ土に除草剤も撒かないでしょう。肥料もやらない方が自然のままに育ちます。私たちの自然農は畑を耕すこともしません。除草剤の対象である雑草も有益に使います。刈った草はマルチの代わりに畑に敷きます。これには土が良くなる効果もあります。最後に大事な自家採種です。固定種のタネを入手し、翌年は自分でタネを採取して続けていくのです。
「種子が消えれば、食べ物も消える。そして君も」ベント・スコウマン